まず、少しだけ前提をば。
裁判には、
民事裁判と
刑事裁判という二種類の裁判があるのをご存知でしょうか。私の家族がそうなのですが、一般の人はあまり区別して認識していない人が多いみたいです。
色々と細かい違いを挙げるとキリがないので、ここでは究極的な違いだけ書いておきます。
民事裁判は、原告VS被告の一般人の間の裁判、それに対して、
刑事裁判は、検察官(国家)VS被告人の裁判です。
別の言い方をするなら、
刑事裁判においては、被害者は裁判の当事者ではないということです。もちろん重要な証人ではありますが。
例えば泥棒の被害にあった場合を例に説明しましょう。
被害者である貴方は、警察に被害届けをだして、犯人が捕まったとします。
すると刑事裁判が行われて犯人には刑事罰(懲役とか)が科されるわけですが、この刑事裁判というのは、検察と被告人(の弁護士)で争われるもので、貴方は証人として呼ばれるにすぎません。つまり、貴方が弁護士を雇ったり、訴訟運営をする必要はないわけです。加えて注意しなければならないこととしては、刑事裁判が行われたからといって、
貴方に盗まれたお金が戻ってくるわけではない、ということです。
ただし、盗んだお金を被害者に返すことは、情状(認められれば減刑されることがある)に関係するので、犯人が自主的に返すことも多いとは思いますが。
犯人が自主的に返してくれない場合に、強制的に取り戻すには、貴方が原告、犯人を被告として、
別途民事訴訟を起こすことが必要ということです。これは警察に被害届けを出したからといって自動的に行われるわけではありません。
少しくどい説明になってしまった気もしますが、刑事裁判と民事裁判の違いがなんとなくわかってもらえたでしょうか。
ここから本題のPASS抜き行為が法律上、どのように規定されているのかを検討してみます。
恐らく該当しそうな条文としては、
『不正アクセス行為の禁止等に関する法律』
第3条第1項 何人も、不正アクセス行為をしてはならない。同2項にどのような行為が「不正アクセス行為」にあたるのかの定義が書いてあるのですが、細かすぎるので割愛します。一つだけ注意しておくと、この犯罪は、被害者に何らかの損害が発生していることを要件としていません。つまり、
他人のIDにアクセス(IN)した瞬間に犯罪が成立します。
この規定に違反した場合にどのような刑罰を受けるのかと言うと、
第8条 次の各号に該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一号 第3条一項の規定に違反した者この刑罰が重いとみるか、軽いとみるかは人それぞれでしょうか。
ただし、前科がつきますから、就職等で不利になるという実質的・社会的不利益を忘れてはいけません。ネット上の装備や通貨のために一生を棒に振ることになるかもしれません。
他の問題としては、
『刑法』
第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。いわゆる、窃盗罪に当たるようにも思われますが、「ゲームデータというものが財物にあたるのか」という点や、「被害者が占有(事実上の支配)しているといえるか」という点など、さまざまな難点があり、窃盗罪にあたるという認定は難しい気がします。
いやいや、本当に難しすぎて、私などにはとても、とても・・・。
PASS抜きとは別問題ですが、Webmoneyのようなネット通貨の法的取り扱いをどうするか、という点をはじめ、インターネット上の法律関係はまだまだ未整備の部分が多いようです。
恐らく、検察も窃盗罪ではなく、不正アクセス禁止法違反で起訴すると思います。
ここまで書いてきたのは、刑事裁判関係の話です。
もし被害者が、犯人に対して損害賠償等を求めたいと思った場合には、別途民事裁判を起こさなければならないのは、最初に書いた通りです。
この場合、
『民法』
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。法律用語としては、「不法行為」と呼ばれている条文ですが、この条文を根拠に損害賠償を請求していくことになると思います。ちなみに、この条文は、交通事故や暴行を受けた場合等、幅広い場面で使われるので、覚えておいて損はないかも?
ただし今回のPASS抜きに関して言うならば、ゲーム上のデータである装備を消された、キャラを消された、ということが、どの程度の金銭的評価を受けるかという問題があり、どうも大した金額にはならないような気がします。精神的損害に基づく慰謝料請求も、それ程高くはならないと思いますし。
裁判費用等を考えるとあまり現実的ではないかもしれませんね・・・。
以上、PASS抜きと法律の関係を少しだけ検討してみました。
刑罰を科される立派な犯罪ですから、遊び半分でやるのはくれぐれも止めましょう。
追記(6月21日)6月20日の国会で、刑事訴訟法の改正案が通ったのですが(施行は2008年からだと思います)、まさに、この記事の前提として説明した点が変更されました。
あまりのタイミングの悪さ(良さ?)に、自分でも驚いています・・・。
さすがに、修正しておかないとまずいと思うので、少しだけ説明しておきます。
今回の改正案の重要点は二つです。
1.犯罪被害者の刑事裁判上の役割の変化
2.犯人に対する損害賠償請求を刑事裁判と一緒に行える1は、一部の重大犯罪に限ってですが、今まで被害者は単なる証人として参加していたものが、検察と同席し、被告人に対して直接質問等をすることができるようになるというものです。この制度に関しては、批判も多くあり、私自身反対ですが、ここで細かい法律論議をする気はないので省略します。
2は、有罪判決が確定した場合に限り、自動的に被害者から被告人に対する損害賠償認定まで行うことができるようにする制度です。損害賠償額に不満がある場合は、通常の民事訴訟を起こすことも可能です。
この制度は、被害者がわざわざ民事訴訟を起こす負担をなくすもので、いい制度なのではないかと思います。PASS抜きの場合にも、犯人から損害賠償をもらえるかもしれません。
元記事の内容に直接関わるものだったため、責任上、簡単ですが今回の改正について説明してみました。詳しくは、新聞やネット記事を読んでみてください。
何か疑問がある場合は、コメントに書いていただければ、わかる範囲で答えようと思います。